第5回 九州・沖縄地区研究会 ―不易と流行の狭間での雑感―

 松永 雅弘(長崎国際大学)


昨春から始まった新型コロナウイルス感染症は、終わりが見えないどころかさらに厳しさを増している。年が明けすぐに二度目の「緊急事態宣言」が政府から発出された。新聞の見出しは「緊急事態宣言」、「医療崩壊の危機」、なんともおどろおどろしげな言葉だ。平和な時代に生まれた私にとって、人の命を脅かす「目に見えない不安」に振り回されている自分がいる。生きている間にまさか自分がこんな世界史に語り継がれる事象に遭遇するとは思いもしなかった。そんな事象が一年近く続いている。

「三密を避けろ」「家で過ごせ」「人に逢うな」と令和の時代の幕開けは、感染防止の為に人との直接的関わりを避けることが求められた「ニューノーマル」の時代。一年近くマスクをしたまま人と話している。加えてソーシャルディスタンス、人との距離を取り、半分しか見えない顔に話しかけている。不要不急の外出を避け、何事も自粛。「黙食」「黙浴」「黙トレ」など新しいマナー?と「マスク警察」「不織布マスク警察」となるものも出現しているらしい。勿論、仕事帰りにチョイと一杯は、厳禁。人生も峠を越えた人間でも、制限ばかりで鬱々となる。

しかし、我々は、長く生きていればこんな時もあると割り切れるが、若者、ましては学生にとっては、苦行・苦難の日々だろう。夢を描いた大学生活、キャンパスを歩くことも出来ない、友達と旅行も遊びも、部活やサークル活動も、遅くまで飲み明かすことも、ましてや授業や試験までも制限されるとは・・・。

昨日(1月27日)、サラリーマン川柳(第一生命保険)の全国優秀100句が発表された。こちらもコロナ関連が多い。「出社日は 次はいつなの? 妻の圧」「テレワーク いつもと違う 父を知る」「コロナ禍が 程よく上司を ディスタンス」「どこにある ステイホームで 俺の場所」などなど世相が、自分が映し出されている。コロナもこんな感じて笑い飛ばしたいものだ。

そんな中、初めての在宅ワーク、巣ごもり期間に、本棚を整理し、懐かしい一冊を見つけて再読した。
「・・・『面授』(めんじゅ)という古い言葉を知った。人間と人間が向き合い、お互いに息づかいのきこえるような距離で何かを学び、何かを伝え、そして何かが伝えられる、これを面授という。・・・・ひとつの思想とか学問とか信仰とか、さまざまなものは、人間がそれこそ手を出せば届くぐらいの距離で向き合って、肉声で伝えられてはじめて伝わるものだと。・・・・面授では、言葉の内容と同時に、その言葉を発する人間の表情とか肉声、あるいは息づかい、間のとりかた、そういうこと全部を通じて、なにかが人間に伝わってくるものなのではないかと・・・」(五木寛之著 大河の一滴より)。

「面授」は、道元禅師の「正法眼蔵」の中で説いた仏教の道理。教えを対面して直接授かること。信仰や本当の意味での情報は、実は面授でしか伝わらないと考えられている。オンライン授業は、果たして学生に効果的であっただろか?授業料に見合うだけの教育は行えただろうか。

学会活動も同様であろう。九州・沖縄地区研究会は、年に4回、福岡を中心に九州各県の会員の所属大学で研究会を開催する。ワークショップや講演会、会員相互の意見交換を中心に企画している。研究会の締めは、情報交換会。ここで研究会での課題が熟していく。まさに「面授」の効果が現れるときだと確信する。

しかし、今期は一昨年12月に沖縄名桜大学で開催して以来、5月は残念ながら中止、7月、10月、12月はオンライン開催となった。もちろんオンライン開催のプラス効果もある。第一に移動時間の節約、長崎からだと福岡まで片道2時間以上、日帰りだとなかなか大変である。また旅費の節約にもなる。更には遠くの研究会にも気軽に参加出来る。前回のオンラインでは、北海道から沖縄までの参加があり、全国の会員と交流の機会が持てた。オンラインは、便利で効果的な道具である。しかし、何か寂しい。

私は今でも研究会に初めて参加した時のことを、鮮明に覚えている。全く面識もない私を満面の笑顔で出迎えてくれた、優しく丁寧な語りの小原一郎氏(福岡大学)、豪快で明快な口調の山村昌次氏(福岡大学)。毎回の研究会で必ず声をかけてくれ、周りの人をつぎつぎに紹介してくれた。とにかく受け入れてくれた。どんなことを聞いても、丁寧に教えてくれた。小さな大学の知識も経験もない私を、本当に歓迎してくれた。暖かい居心地のよい組織だと感じ、職場での課題や悩みを次々にぶつけていた。いつも気兼ねなく気軽に相談させてもらった。社会人になって職場以外での師に出会えた瞬間だった。

小原氏、山村氏を思い出す度、松下幸之助の「道をひらく」の言葉が浮かぶ。「教えずしては、何ものも生まれてはこないのである。教えるということは、後輩に対する先輩の、人間としての大事なつとめなのである。その大事なつとめを、おたがいに毅然とした態度で、人間としての深い愛情と熱意をもって果たしているかどうか。教えることに、もっと熱意を持ちたい。そして、教えられることに、もっと謙虚でありたい。」

大学行政管理学会、特に九州・沖縄地区研究会は、まさにこんな組織だ。会員の大学の規模や状況、個人の知識や経験、年齢、性別の差を超えた無評価の中の連帯感が感じられる。いま、地区研究会の世話人として私の努めは、私が先輩方から暖かく迎えてもらったように、研究会の仲間と共に、後進を迎え包み込み、共に成長できる組織を維持していくことだと考えます。多くの皆様の九州・沖縄地区研究会へのご参加をお待ちします。


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