第33回 大学職員としての生き様
鈴木理誉(城西大学)
リレーコラム執筆担当のひとりへと白羽の矢を立てて頂き感謝申し上げます。過去のコラムを拝読すると、恐れ多い方々の玉稿が並び、自分のような偉くもない、特に何かスゴい業績を成し遂げた訳でもない、今、ふと気がついたら大学職員になっていたと言う、少なくとも私のような存在を忘れずにコラム執筆へ白羽の矢を立てて下さった方がいたことは確かなことで、本当に良いのであろうか迷いながらも筆を執ることにしました。猫は何もない広い部屋に放置されると不安になって角に角にと移動したがると言いますが、今まさにそのような心境です。さて、思えば大学職員になぜなったのだろうと考えてみました。大学時代は就職氷河期で最も寒い中、会計士試験を目指して勉強を続け資格取得には至らなかったけれども、たまたま就職することができた自動車メーカーの経理部で働いており、たまたま転職サイトを覗いたところ(当時はYahooに「転職」という欄があったので思わずクリックして視てしまったのです)、都内に在る100年以上の歴史を誇る名門私立大学が財務部職員として職種型採用にて募集していたものを見つけ「大学とは働く場所でもあるのか…」と、何となく応募したことが切っ掛けでした。思えば偶然、自分は大学職員になったのです。
採用試験会場に赴くと「応募が殺到したので途中で転職サイトの掲載を打ち切りました。現在、応募が約1000名来ており、そこから1人を選考する予定です」と採用担当者から絶望的な説明を受けて筆記試験に臨み、投げた石が当たる訳が無い倍率であり、もはや採用される訳がないだろうと肩を落として試験会場の大学を後にし、まるで入学試験の日のように列をなして歩く採用試験を受けに来た大勢の人混みに飲まれながら最寄り駅に向かって歩いた記憶があります。ところが、思いも寄らないことに試験後、1次面接、2次面接、最終選考と通ってしまい、そこから大学職員としての生業が始まりました。20代後半の時でした。採用してくださった面接官であった理事の方には今でも本当に感謝しております。配属されたのは希望した通り財務部でした。財務部では10年以上を過ごし、当時は大学の基本金制度とは一体何なのか?貸借対照表の純資産の部にある収支差額がどの大学も大赤字だけど、これは企業会計と同じ累積赤字なのか?倒産しないのか?と学校法人会計の知識も経験も無かったことを思い出すと、今となっては随分、大学の財務について成長したものだと感じています。大学行政管理学会と財務研究グループに入会した時期もその頃でした。
その後、教務部に異動になり3年ほどが経った頃、私のことを学校会計のセミナー講師を勤めた時に知ったようで、現在、勤務している城西大学より財務改革についてお声掛けを頂いたので、40歳と言う不惑の年齢に職場を変え働いています。前の職場を退職する時には多くの教員・職員から昼も夜も連日食事会や飲み会等で送り出してくださり、本当に数多くの良い思い出と素晴らしい仲間たちと経験を積ませて頂いたことに心から感謝しています。
城西大学に入職してから気がつけば約5年が経ち、経理改革ではコストではなくプロフィットをもたらす職員になりたいと言う思いがあり、一定の成果を上げることができました。監事の補佐役も兼務させて頂き、監事は学校法人会計の著書を多数御執筆されていらっしゃる著名な先生であり、大学職員になった当時から書籍を読み漁った方でしたので、同じ部屋で共に働くことができる機会を得たことは大きな喜びと自分の財産になりました。より実効性のある監事監査ができるよう小職より気がついた提言を差し上げるよう務め、監事が建設的に改善を促してくださり、大学が数値で良くなったことを把握した時は大学職員冥利に尽きる思いでした。気がつけば身分は管理職になっており、現在では学長室で勤務しています。学長はとても熱意が溢れる方で大学改革に懸命になっております。そして、学長室の仕事は学内のあらゆる業務が舞い込みとても大変な仕事で時にはくじけそうになりますが、学長室の仲間たちから励まされ、本来、自分が支えなければならないはずが自分を支えてくださり、毎日助けられております。学長室に異動となった後、何も分からない自分に対し、同じ室員の仲間たちから「鈴木さんがここに来てくれて良かった」と言ってくれた時、実は涙が出ました。
偶然、今の自分がいるが自分の生き方は自分で決める
JUAMのコラムリレー執筆依頼を頂いたことで今の自分を振り返る機会を得ることができました。すべては必然ではなく、偶然の連続として今の自分が在ることを感じます。しかし、いくら偶然でも組織や他人から言われるがまま流されて来たのではなく、自分の強みは何か、自分では何ができるかを問われた場合にしっかりと答えられるよう財務関係のスキルは磨いてきたつもりでした。大学職員になったきっかけも転職サイトで職種別に「財務」の欄で募集を掛けていたことがきっかけであり、もし、企業で働いていたあの時、職種別ではなく単に「団体職員」の欄で大学職員募集と言うだけで公募をしていたのなら募集に気がつくことはなく、大学職員という仕事を知ることもなく、今の自分は大学業界で働いていなかったと思います。今の大学に居ることも財務改革を実施するべくチャンスを与えてくれた人がいたからでした。仕事は課題の連続でした。先ずは課題発見能力が問われ、次に、どうすれば解決することができるか、課題解決能力が必要となります。その時に自分がやってみようと手を挙げれば、あるいは手を差し伸べてもらえるのであれば、自分の中に闘志が湧いてくることが実感できるはずです。自分ならできる、やってみせると心が奮い立つ気分は本人にしか察知することができません。自分は何ができ、どのような人間で、他の人と能力は何が違うのか。自己を見つけることから大学職員としての自己実現が始まったのだと思います。やってみせると宣言すれば、その仕事はまさに自分の「職」として息衝きを始めるでしょう。だから、再び新たな大学で財務改革にチャレンジする機会を頂けるのであれば、大学を利用して自己実現をするくらいの意気込みで、自分の腕を試しに行きたいと思っていることが本心です。
大学職員とは
さて、自分なりに大学職員について考えてみます。大学職員とは何かと言う論考も沢山出ていますが、私としては大学職員のキャリアも本来、他人から与えられるものではなく、自ら築くものであると考えています。ある日、突然の人事異動やジョブローテーションによってキャリアを与えられる時代はいつまで続くのでしょうか。中には経理、総務、施設管理、図書館、情報、教務、就職、入試、人事、校友会、広報、博物館などあらゆる部署異動を繰り返してきた人もいるのかもしれませんが、10年も20年も広く浅く畑違いの仕事をしてきたら、実は何も身についていないということになるでしょう。PCが普及することで1人あたりの労働生産性が向上し、業務が高度化・複雑化し、インプットを欠かせば直ぐに知識が陳腐化する今日において「あなたは一体何ができますか?」と問われた時、「自分の専門や自分が貢献できるものはこれだ」と答えることができるものは何でしょうか。学外に放り出された時、自分の能力は「枠印が無いけどここに印鑑が必要、この場合はこの申請書が必要など、学内の事務手続きに精通しております」と言う人が出て来てもおかしくありません。
確かに、中には同じ学校法人に40年以上も勤め上げるつもりだから、そのような考えは関係ないという人もいるのかもしれません。しかし、そのような考えはこれから変わってくるのではないでしょうか。18歳人口は加速度的に減少し2022年112万人から2040年には84万人まで減少することを考えると、大学の数も30万人分は無くなっている可能性が大きいのです。大学が今の状態で生き残っているとは限らず、大学同士の統廃合も進むかもしれません。その場合、自分は露頭に迷わないかと言うことです。JUAMには私が所属する財務研究グループをはじめとした専門部会があり、専門的なスキルを身につける機会が多くあります。ところが、突然の人事異動からメンバーが畑違いの部署に異動し、各専門部会から遠ざかってしまう人を見かける度に大学業界の人事の在り方を再考させられます。
だから、個人的にはもっと大学間の職員同士の職種別による人財の流動性が盛んになって良いものと考えています。転職サイトを覗いて「経理」をクリックした時に大学職員の公募があったことが私の大学職員人生の始まりでしたが、転職サイトを覗くと日本型雇用はメンバーシップ型と言われていますが中途採用ではジョブ型に近い職種別採用、つまり「自分には何ができるのか」が問われています。転職サイトでは、欲しい人材が来るまでその人の職務経歴やスキル・経験等から良い人が来るまで1人1人と面接を繰り返し、何ができるのかが問われ公募を掛けるのが通常です。通常、会議室に一括に中途採用候補者を集めてペーパー試験など課しません。それに対し、大学職員における中途採用では、30歳迄等と年齢制限を設け、教室に人を集め一律に筆記試験を受けさせ、やっと採用されたと思えば前歴やその人の持ち味を台無しにする数年毎の畑違いのジョブローテーション人事を行っている大学も多くあります。これは、中途採用でも新卒採用と同じ扱いで終身雇用・年功序列を前提としているからだと思われます。年功序列を主とする組織なら別ですが、今日では、途中で退職していく人も多いため、時代に適合した採用方法なのか再考する余地があると思われます。中途採用による外部人材の受け入れは異なる文化やノウハウを取り入れることで組織に活力を与えることができます。外の知見や息吹を取り入れ多様な経歴を有した人を採用するためにも年齢制限は撤廃するべきでしょう。
最近、職務記述書を明記した職務を限定するジョブ型雇用が新聞等で話題になり始めました。その仕事を担当するからには年齢に関係なく同じ給与です。メンバーシップ型と異なり職務記述書に無い仕事を依頼する場合、追加の対価が必要です。これからの時代は、先ずは自分のひとつの職種で努力し、自分の能力の限界を試すつもりで、入試広報のプロ、大学人事のプロ、大学財務のプロと言う大学職員の在り方、組織への就社ではなく専門である職への就職、大学業界における専門的な職業の在り方が生まれ、より良い職場環境や待遇を求め人財の流動性を促す仕組みが出来ても良いのではないか、そして大学間を渡り歩き、自分の経験値を高めレベルアップを繰り返す職の在り方があっても良いのではないかと考えることがあります。どの大学も同じような共通した課題を抱えているものです。過去に経験したことがあり、自分の経験を活かして課題を発見・解決することができた時には、自分と言う意義を見出すことができると思います。過去の肩書や企業から来たからと言って務まるほど、大学職員の業務は甘いものではありません。
大学行政管理学会について
大学行政管理学会の良いところは同じ業種・職種の仲間ができることだと感じます。JUAMに所属し、お互い切磋琢磨し、勉強するのはなぜかを考えると実践するためであることが分かります。知行合一という言葉がある通り、学んだだけで実践することができなければ、単なる知識にしか過ぎません。各種セミナーに参加し、自分の頭の中だけで納得しても現実は何一つ変わらないし、動きません。学んだら、それを活かせる機会を考え続け、どのように実践することができるかを考える必要があります。実践すれば失敗も山のようにするでしょう。時には批判を浴びてつらい思いをすることもあるかもしれません。理不尽な思いをたくさんしたり、足を引っ張られることもあるでしょう。だから、中には批判を恐れて何もしないという選択肢を取る人もいるかもしれません。しかし、批判を恐れずに実践すれば、そこから学び得ることができます。そして、次はより研ぎ澄まされた突破口や打開策を編み出すことができます。理不尽な思いに耐えながらも悔いのない実践だったら、それは失敗ではなく成長や学びにつながったと思えることができるでしょう。それでもダメだったら、また次に行けば良いのです。そして、その時には大学行政管理学会の仲間たちが励ましてくれます。
大学職員の人財の流動性について先に述べましたが、JUAMの会員同士で付き合っていればこの人財が欲しいという機会にも巡り会えるはずです。やる気のある有志でこれだけ多種多様な人財に恵まれた大学行政管理学会で繋がりを持てば、この人だと思う人に巡り会えることができます。私は有志が集まった大学行政管理学会内における人財の流動性や一本釣りも日常的に在るべきものであると思います。
大学行政管理学会の皆は、成長したい、進歩したいといつも考えているはずです。学会は加入が強制されているものではなく、有志が集まった任意団体です。もちろん組織として加盟している大学も在るかもしれませんが、人事や上司から強制的に働きかけても、決して個々の能力は伸びません。少なくともこのコラムリレーの読者は自らの足で、自らの意思で前に進んで行きたいと感じているのだと思います。大学行政管理学会はひとりひとりが持つ価値観や能力、専門性を活かし合い、教育とは何か、大学とはどうあるべきかを試行錯誤し、学生が成長した勇姿を見ては寄り良い社会づくりに貢献する共創の考え方を大切にしていると思います。同じ志を有した者同士が大学行政管理学会を通じて同じ部会に集まり、共に悩み、一緒に考えると、自分に気づき、自ら考え、自ら行動し、仕事に高い目的意識を共有することができ、皆が共に働く喜びの大きさは掛け替えの無いものです。自分が見えてくると学びが見えて来るものです。仕事は若いうちは課長の指示に従うだけで自身の創造的な仕事ができないという人もいると思われます。学生にどう応えるのか、やれるのか、やれないのか、判断の一部始終を上司に伺い、決裁を待っていることほどつまらないものはありません。仕事というのは人から指示されたことだけやらされていると感じると学べることが少ないのですが、皆は自ら挑戦して学生に寄り添い、自分で先に進みたいと既に腹が決まっているはずです。つまらない仕事だけどやるしかないとかモチベーションが低くなりそうだったら、そういう人はJUAMを通じて学びを得たり、自分で面白くすることができそうだとか、貪欲に吸収していくことです。虎視眈々と機会を伺い自ら新しい知識や技術を修得している自分に気がつけば、大学職員に対するモチベーションも高くなります。大学職員として働く意義や愉しさは、漫然と事務的な作業を繰り返すのではなく、今日、明日と日々賢くなった自分を実感できた時だと思います。そして自分が成長することができたことを実感しながら、入学式で迎えた学生たちもすっかり成長し、大学を巣立っていく様子を眺めることの喜びほど大きな感動はありません。
最後に、JUAMの素晴らしさをひとつ付け加えれば、大学行政管理学会は大学や組織、世代間の垣根を超えた多種多様なバックグラウンドを有した仲間たちが集い、多くの友人ができることです。思い悩んだ時や仕事に行き詰まった時は、仲間たちと酒でも飲むと良いかもしれません。

