第35回 生きていくということは学ぶこと
佐藤浩輔(大阪体育大学)
「これがいい」
息子がまっすぐ指さしたのは、シルバーのランドセルだった。
「シルバーか…」
男の子は黒、女の子は赤、の時代に育ち、しかも妻から「ひと昔前に生まれる予定だったんじゃない?」とあきれられるほど頭の固い私は、すぐには言葉を返せなかった。
長男が来年から小学生になるので、ランドセルを買うための下見に行った時のことである。昔と違い今のランドセルはカラーバリエーションが豊富で、お子様ランチのおもちゃをひとつ選ぶにも迷いに迷ってなかなか決められない息子には、すぐに決断できないだろうと思っていた。友達と遊ぶ時も、自分が引っ張っていくより友達の遊びに乗っかっていくほうが好きな子だった。自主性のある子に育ってほしいと願いながらも、これが本人の性格なのかなと思っていた。
「ほら、他にも色んな種類があるで。もっと見てみたら?」
私が勧めると気を遣って他のランドセルも背負ってくれるものの、一通り背負った後、
「やっぱりこれがいい」
小さい声ながらもはっきりと言った。
思い返せばこの1年ほどの間に、彼には弟ができ、習い事を始め、5歳の子供には小さくはない環境の変化があった。その中で、経験を積み重ね、社会が広がったことで、私が気付かないうちにしっかりと自我を持ち一人の人間として成長していたのだ。
我が身を振り返ってみると、どうだろうか?
数年前、30代半ばに差し掛かり新たな環境でのスキルアップを目指して転職を考え、ありがたいことに今の職場に迎えていただいた。
同職種間の転職といえども、職場が違えば組織の風土や仕事の進め方も違うわけで、新天地では毎日あらゆる物事が新鮮だった。
その中で、前職の良いところは取り入れつつ、新たな職場とその上司や同僚から多くを学んできた。さらに、行政管理学会などの学外研修を通じて、他大学の職員との交流を図ってきた。そして、この春から部署異動し、さらに新たな発見と学びを重ねているところである。
自身を取り巻く環境が変化することで、数多くの新たな経験をし、初めて故の成功や失敗を積み重ねる。そうして具体的な経験をしてショックを受けることで新たに「気付き」が生まれる。「気付き」があるということは、そこから学んだということであり、それは成長の証である。
しかし、環境が変化してもその変化に漫然とついていくだけでは「気付き」は生まれない。変化への意識を鋭敏に研ぎ澄まし、以前とはどこが違うのか、なぜこの方法が取られているのか、など常に疑問を持ち考える必要がある。
前任校での話になるが、図書館から総務部に異動となり、全く違う仕事内容となった。最初は分からないことだらけで戸惑い、簡単な仕事もまともにできず使い物にならない私は、周りから白い目で見られながら、大学職員になった時の初心を忘れ、どん底の気持ちで仕事をしていた。
その時に、救ってくれたのは転職してきた直属の上司の教えだった。
・仕事を作業にしてはいけない。
・なぜ、その仕事をするのか?を考えたか。
・適当な仕事をすることは、学生に失礼なことをしている。
・大学職員は教育の場を作ることが仕事だ。
部署異動という環境の変化に対して、漫然とついていくだけで必死だった中で、上司の助言のお陰で数々の「気付き」が生まれ、成長を実感した経験であった。その経験から「生きていくということは学ぶこと」であり、それを心に留めて漫然と物事と対峙するのではなく、何事も学ぶ姿勢を持って対峙していきたいと深く思った。
現在、私も息子も環境の変化により、お互い学び成長している過程である。
息子とのランドセル選びは、いくつになっても学ぶことは必要であり、「生きていくということは学ぶこと」なのだと、改めて思い出させてくれた出来事であった。