第50回 大学周年史に大学職員はいますか

堀 佑二(獨協大学)

 2022年も間もなく過ぎ、2023年が幕を開けようとしている12月某日に、かねてから訪れてみたいと思っていた野間教育研究所に行ってきました。
  野間教育研究所は、1946年に民間教育研究所として発足した研究所で、1950年に財団法人化し、以降70年にわたって教育に関する研究をしているところです。研究部門は、日本教育史研究部門など4部門に分かれていて、過去には学校沿革史を研究テーマとして扱っていました。野間教育研究所では、学校沿革史を1965年から収集し始め、2022年3月時点で約8,800冊(大学だけで4,000冊以上)と国内最大の蔵書数を誇っています。学校沿革史に興味関心のある人にとっては一度は訪れたい場所となっています。

 ところで、学校沿革史や企業などのさまざまな周年史とはいったいどういったものでしょうか。在籍、所属していた学校でたまたま周年記念のタイミングがあってお土産でもらう程度の認識で、なかには所属機関の周年史を一度も見たことがない人もいるかもしれません。もちろん、祝い事の記念品として、あるいは存在を誇示するために制作されていたこともありますが、現在企業では、社員教育や社外への方針の周知などのブランディング、採用活動などリクルーティングのツールとして経営戦略の役割を果たすものと言われています。また、学校沿革史、特に大学周年史は、「建学の理念」など自校の存在意義(アイデンティティー)の確認、学生や保証人などのステークホルダーへのアカウンタビリティー、社会のなかでの大学の歴史的な位置づけの確認、さらには自己点検・評価などの役割が期待されています。

 それでは、大学周年史にはどのような記述があるでしょうか。章立ては、先に述べたように歴史的な位置づけもあるため、全体的な流れは歴代の理事長や学長を中心に述べられつつ、「戦時下の大学」、「大学紛争」など歴史的な事柄を記述していることが多くなっています。また、文章だけではなく、資料集や写真集の形で出版されるケースも増えています。

 ここで、気になるポイントとして、大学周年史のなかで、事務局や大学職員はどのように記述されているでしょうか。野間教育研究所に所蔵されている大学周年史で、2022年から遡って時間の許す限り調べましたので、いくつかの事例を挙げてみます。
 武庫川学院では、部署の紹介として入試や教務、キャリアセンター以外に総務、人事、経理など法人部門の記述もあり、また「主なニュース」では部署が取り組んできた業務について記述されています。甲南学園では、「専任職員新人事制度の導入と研修体系の構築」というトピックで、人事や研修制度の改革の経緯が記述されています。ノートルダム清心女子大学では、SD研修が一覧でまとめて記述されています。大学職員の業務や研修体系はなかなか見えにくいところがありますが、こうして記述されていることによって、教育協同体の一員として大学のなかでともに働き、ともに学んでいることが見えてきます。
 また、大学名の公表は控えますが、職員の名簿を記載している大学もあります。大学周年史に職員名簿を掲載するケースはなかなか珍しいものと思われます。公表に際して気にする職員もいるかもしれませんが、自身の名前が大学周年史にあることで所属意識を醸成させることができるという点も考えられます。

 近年の大学設置基準の改正により、SDの義務化、教員組織や事務組織が教育研究実施組織と変更されるなど、大学職員の役割や教職協働がより重要となってきました。昭和史論争の際に「人間のいない歴史学」と批判を受けて歴史学の在り方が変わっていったように、大学周年史の在り方も変わっていくのでしょうか。大学史を愛する者として、今後も大学周年史を興味深く拝見できたらと思います。

学校沿革史研究会(部会)の著書3冊(詳細は、参考文献)

参考文献
・大塚(2017)『社史・周年史が会社を変える!企業の未来を戦略的に設計する秘訣』日経BPコンサルティング
・学校沿革史研究会(2008)『学校沿革史の研究 総説』(野間教育研究所紀要第47集)、財団法人野間教育研究所
・学校沿革史研究部会(2013)『学校沿革史の研究大学編1テーマ別比較分析』(野間教育研究所紀要第53集)、公益財団法人野間教育研究所
・学校沿革史研究部会(2016)『学校沿革史の研究大学編2大学類型別比較分析』(野間教育研究所紀要第58集)、公益財団法人野間教育研究所
・甲南学園100年史編纂委員会(2020)『甲南学園の100年』学校法人甲南学園
・公益財団法人野間教育研究所HP:https://www.nomaken.jp/
・ノートルダム清心女子大学10年史編纂委員会(2019)『ノートルダム清心女子大学史 : 2009-2018』ノートルダム清心女子大学
・武庫川学院(2020)『武庫川学院八十年史』武庫川女子大学出版部

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